宮崎駿さんの作品には中学生の頃から親しんでいて、長編アニメーションからの引退宣言を寂しく思っていた。
「風立ちぬ」には先入観や予備知識はなく、宮崎さんが長編でやりたかったことの集大成なんだろうなぁ…と、襟を正すような気持ちで観賞に臨んだ。
その感想は…
長編引退作の名に恥じない名作であることは間違いないと思ったし、宮崎さんやジブリの制作スタッフの方々のなみなみならぬ熱い思いも伝わってきた。
しかし、本当に個人的な印象で恐縮だが…自分は、感心はできたが、感動や共感はできなかったのだ。
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今までの宮崎さんには、「わかる人にはわかる」「わからないなら観賞後に調べて、改めてわかる」という作品作りは、きっと許されなかったのだと思う。
職人芸でもって、観客を楽しませ、夢中にさせることに徹する。その結果、犠牲になってしまった芸術家宮崎駿のこだわりや美意識も数え切れない程あったことだろう。
宮崎さんはこの長編引退作ではそれらを少したりとも犠牲にしたくなかったのでは。
今まで自分が見ていたのは、エンターテイナー宮崎さんの「職人」の部分だったのだろう。
「芸術家」としての宮崎さんの素顔を垣間見ることができたのは、「風立ちぬ」が初めてだったのかも…。
音楽にも共通する部分があるかと思うが、「わかる人は解ってくれる、わからない人に無理に受けてもらう必要はない」というアーティストは多いのではと思う。
最初はとまどっても、感性で「いいな!」と感じ、段々そのアーティストの世界に魅了されて、ファンになる。そんなファンのために、アーティストもさらに個性を磨いていく。
宮崎さんは、今後は、短編などでもっと自分の芸術を追求し表現していかれるのだろう。「風立ちぬ」は、宮崎さんにとっては新たなスタートだったのかも知れない。
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ただ、職人芸が必ずしも、純粋な芸術に劣るとは、自分は考えたくないのだ…。
歌舞伎やオペラなど、世界的に認められた芸術も、一定の様式やセオリーに支えられた職人芸の集大成であると言えるのでは。
宮崎さんは、日本のアニメーションを世界に誇れるものにし、その芸術性も認めさせた偉大な功労者のお一人に間違いないと思う。その仕事は、いまや世界的にもたくさんのファンを魅了している。自分もその一人だ。
宮崎さんが引退されたあと、その職人芸は受け継がれるのか、それとも、もう継承されないのか…多くのファンは気をもんでいると思う。
長編アニメーションの引退作は、そんな心配を吹き飛ばすような、後進の人たちの金字塔となるような、つきぬけるような衝撃を与えるものであって欲しかった。
映画館で初めて観る映画は、まさにライヴだ。我を忘れて没頭できなかった自分は、ライヴの興奮や感動は味わえず、エンドロールまで常に冷静だったのだ。
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余談だが、落語を扱う再放送中のドラマ、「ちりとてちん」で、「プロの芸人は身内の不幸さえもネタにできねば」という師匠が、不覚にも妻の余命宣告の悲しみの為公演をすっぽかし、愛弟子にそれを知られまいと落語家自体を引退してしまうというエピソードがあった。師匠の意地と、自分の信じる芸を伝える為に。
芸人は、職人は、自分の芸や技に陶酔してはいけないのか…と考えさせられた。
自分の作品を観て初めて泣いた、と宮崎さんはおっしゃっていた。
宮崎さんがこの作品にこめた思いは、観客へ向いていたのだろうか。それとも、自分に創作へのインスピレーションを与えてくれた様々な愛しいものへのオマージュだったのだろうか。
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そんなノスタルジーに浸ったミュージシャンズ・ミュージシャンの様なスタンスではなく、アニメーション作家としての、ハングリーな真骨頂を見せてもらえることを、勝手ながら大いに期待していたのだ。
素晴らしい職人芸で、感動と興奮を与えてくれる骨太な作品が観たかった。アニメーションの原点である、極上の冒険活劇であってほしかったのだ。子供むけ、大衆芸術おおいに結構。宮崎さんが若かりし頃、原画スタッフとして参加していた、「長靴をはいた猫」のように。
「風立ちぬ」は、私のような単純明快なファンのラブコールに応えるというより、宮崎さんのこだわりと美意識に共感する、より大人の感性を持つファン層へのラブレターだったのかも知れない。
(もちろん心から楽しんでおられたファンの方も大勢いらっしゃるので、その感動に水をさしてしまったとしたら誠に申し訳ない。あくまで、個人的な感想、印象であることでご容赦頂きたいと願う。)
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一抹の寂しさを感じているが、多感な年頃からずっと、宮崎さんの作品から多くの感動と元気を頂いてきたことは、かけがえのないことだった。
もう長編を制作されないと決心されたのは、とても残念なことだが、ご高齢なのに体力の限界と闘いながら制作に取り組んでこられた闘志と信念に、ひたすら感服する…。
そんな宮崎さんの今後のご活躍を、いちファンとして、陰ながら応援させて頂きたいと思う。どうか、これからもますますお元気で、制作をお続けになられるよう、願ってやまない。
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