ウクライナの首都、キーウ州(キエフ)からロシア軍が撤退しました。キーウ近郊の町に入ったウクライナの検察や各国の報道機関が遭遇したのは、目を疑うような残酷極まりない光景です。私はAFP通信のニュースでその報道を知りました。

武器を持たない一般市民の方々が410人も殺され、多くのご遺体が路上や地下室に放置されているのです。無抵抗の市民を虐殺することは、明らかな戦争犯罪です。

報道写真の中には、自転車に乗っていたところを殺害されたらしい男性の写真もありました。軽装で普段着のこの方が、兵士ではないことが解ります。愛犬の散歩中だったのか、この方のご遺体のそばには、おそらくこの方の飼い犬とおぼしき大きなワンちゃんがたたずんでいました。きっと、大好きなご主人が息を引き取ったあとも、そばから離れることなく見守っていたのでしょう。覆いのかけられたご遺体がその場から運び出される瞬間の写真では、ワンちゃんが悲しそうにご遺体を追おうとする様子が写し出されていました。

手足を縛られたまま処刑されたと見られる人々や、幼い子どもたちのご遺体も多数発見されたそうです。そのご遺体にまで、地雷が仕掛けられていたというのです。ロシア側は、これらを全てフェイクニュースだとし、ウクライナや西欧諸国の創作だと主張しています。ロシアでは徹底した情報統制が敷かれ、ロシア国内でこれらの真実を知ることが大変困難になっているそうです。

ロシアがウクライナに侵攻してから1ヶ月以上経ち、特に激しい攻撃を受けている南部の都市マリウポリでは、いまだに激戦が続き、市民の死者はすでに5000人近く、そのうち子どもたちの死者はおよそ210人にものぼるという驚愕の情報もあります。非戦闘員である女性やお年寄り、幼い子どもが、体の不自由な方が、避難することさえ妨害され、残酷に命を奪われています……。病院や学校、教会や幼稚園まで砲火にさらされ、多くの人々がロシアへ強制連行されたというニュースもありました。

大切な家族や愛する人と引き離され、平和な日常や財産をいきなり奪われて、国外に向かい難民となっている人は400万人以上にものぼるそうです。その人たちの悲しみ、苦しみも、想像するに余りあります……。我が身に置き換えてみると、高齢の親と、車椅子でしか避難できない障がい者の弟を守らなければならない我が家は、きっと避難せず、戦地にとどまることを選ぶでしょう。ウクライナでも、そういった事情を持つ家庭の方々が、無差別砲撃によってたくさん命を奪われていると思うと、とても人ごととは思えません……。

振り上げた拳で相手に言うことを聞かせようとする暴挙を、許してはなりません。では、より強力な腕力で対抗し、相手を威嚇し、叩きつぶせば良いのでしょうか……?難しい問題だと思います。

隣国に牙をむいたロシアという大国に対抗するため、軍事力を強化する各国の判断もやむを得ないかもしれません。現実的な対応だと思います。

実際、ウクライナの人々は自らの意志で、祖国の独立と国民の命を守るために、武器を取って闘っています。しかしウクライナの人々も、一方的な侵略に立ち向かうために、やむをえず、望んでいなかった流血の事態に巻き込まれたのだと思います。

強大な軍事力を持つ大国アメリカやヨーロッパの国々の力を持ってしても、今回の侵略を止めることは出来なかったのです……。抑止力という名のもとに増強され続け、全世界を何度でも破壊できるほど巨大に膨れ上がった軍事力は、薄氷1枚の上に危ういバランスを保って存在しているからこそ、いたずらに行使できない……。まさに、そこを逆手に取られたのではないでしょうか。

強大な軍事力を理性ある為政者が牛耳るとは限らない。それを私たちは思い知らされました。核兵器の使用さえちらつかせるプーチンは今、全世界を人質にとった気でいるのかも知れません。国際社会は結局は、経済制裁しか打つ手がないのが現状です。

外交でのパイプを繋ぎ、知的な戦略で渡り合う努力を怠ったままでは、意志疎通の出来なくなった相手国と疑心暗鬼に陥り、最悪の事態を招くでしょう。相手国と政治的かつ人間的に渡り合える交渉力や、情報戦で互角に闘えるネットワーク構築をせず、軍事力増強だけに頼るのは、危険すぎるのではと思います。

「目には目を、歯には歯を」と互いに挑発を繰り返すことは、絶望的なチキンレースを招くだけではないでしょうか。

暴力が正義となる風潮を良しとし、理性で解決することをあきらめ、放棄すれば、きっと暴力の応酬で世界は瞬く間に滅びに向かうでしょう。

これは、独裁者プーチンによる、プーチン自身の野望のための侵略戦争だと、私は思います。いまだロシア国内でプーチンの支持率が80%以上と高いのは、プーチンの極端な歴史観に基づくプロパガンダ(思想統制のための宣伝)を信じている国民が大多数だからだそうです。

ウクライナ東部のロシア系住民が、ウクライナのネオ・ナチスに蹂躙されている……。それを救うための戦争だというのが、プーチンが掲げた大義名分であり、大多数のロシア国民は、この侵略戦争を「テロとの正義の闘い」だと本気で信じているとのことです。来月にも勝利宣言をもくろんでいるプーチンは、この東部地域制圧のために、プロの傭兵部隊を投入しさらに残忍な戦闘を行おうとしているという情報もあります。プーチン政権は、ロシア国民の目と耳と口を塞ぎ、正確な情報を遮断し真実から遠ざけようとしているのです。政権に異を唱えるものは粛正する……。恐ろしいことです。

しかしながら、ロシア政府のプロパガンダに疑問を感じているロシア国民の人々も多く存在しています。

この戦争によるロシア軍の兵士の犠牲者は増えるばかりで、そのほとんどが職業軍人ではなく、徴兵された二十歳前後の若者たちだそうです。若くして戦死した兵士のお母さんたちが「母の会」を結成し、ロシア政府が明かさない真の戦死者数を公表するなど、勇気ある活動を行っているそうです。また、SNSの情報などで、ウクライナの小さな子どもたちまでもが犠牲になっていることを知った市民の人々が、警察に拘束されるのを覚悟で、戦争反対の声を上げているそうです。

傷つけられ、深刻な人道危機に直面しているウクライナの人々によりそう気持ちを持つことはもちろん、ロシア国内で危険を冒して反戦を訴えるロシア人の人々とも、気持ちだけでも共にありたいと思います。そして、ロシア国外にいる心あるロシア人の方々が、いわれない差別やバッシングに合われないよう願ってやみません。

人種や国籍、宗教が違うというだけで、相手の人々を敵として十羽ひとからげに憎む気持ちを育てれば、それは新たな戦争の火種を生みかねないと思うのです。

戦争の悲惨さは、憎むべきものです。次の世代を担う子どもたちの笑顔を、未来を守るためにも、大人たちが断固として、プーチンによるこの悲惨な侵略戦争に抗議をすることが必要だと感じています。

偉そうなことを言いながら、今の私には、難民となったウクライナの人々のために募金するなど、わずかな支援しか出来ておりません……。せめて今、出来ることとして、私自身もプーチン政権による暴挙に抗議し続け、この戦争によって苦しむ多くの人々の気持ちに、少しでもよりそおうと思っています。そして、少しでも多くの方に、今ウクライナで起こっている現実に目を向けて頂けるよう、願ってやみません。