故、中沢啓治さん作、「はだしのゲン」。
今から69年前の1945年8月6日、広島に投下された原子爆弾により被ばくした中沢さんご自身の自伝的作品であり、ご存じの方も多いと思う。
主人公ゲンが被ばくしたのと同じ小学生の頃この作品と出合い、本がぼろぼろになるまで読んだものだ。
親の転勤で4歳ごろまで広島の呉市に住んでいた自分にとって、ゲンが元気に叫ぶ「おんどりゃあ~」などの広島弁が懐かしく心に響いてきたのも、この作品が忘れられない理由の一つかもしれない。
つつましく、幸せに暮らすゲンと家族を原爆投下が襲う。閃光、爆風、熱線に焼けただれ彷徨う人びと…。
子供心に、あまりにもリアルな被ばくの描写はとても恐しかった。しかし、多感な子供時代に、「これが原爆の恐しさなんだ。」と衝撃を受けたことは、凄く貴重な体験だったと思う。
☆☆☆☆☆☆☆
2010年以降、いくつかの自治体などで閉架処置や回収処置がとられたことも記憶に新しい。
歴史認識や、現在でいう差別的な用語、過激な描写などが原因だったというが、いずれの処置も、市民の要望により撤回され、再び図書室などで子供たちがこの作品を閲覧できるようになったらしい。
「はだしのゲン」の価値は、今や世界各国で認められ、ボランティアの方たちによって十数か国語に翻訳されているそうだ。発行部数は計1000万部以上ともいわれている。
核兵器による唯一の被爆国である日本から、核兵器や放射能の恐怖をリアルに伝えるこの作品が生まれ、世界の人たちに受け継がれていることは、とても大きな宝だと思う。
ヒロシマ、ナガサキにおける被ばく者の方々も高齢になられ、生きた証言を伝えられる語り部がどんどん少なくなってきている今、この作品が未来に向けて果たす役割は、どんなに重要なことか。
☆☆☆☆☆☆☆
確かに重く、辛く、残酷なストーリーだ。
核や放射能の恐怖、戦争がもたらす悲惨さから目を背けず、真っ向から伝えることが、この作品の最も大きなテーマだと思う。だからこそ、子供向けの漫画だからといって子供だましに誤魔化したりせず、残酷さを残酷なままにしっかり伝えているのだ。
しかし決して、単に原爆や放射能の恐怖を描くだけの怖しい漫画ではないと思うのだ。それだけなら、こうも世界中の人たちから愛されるだろうか。幼い自分も夢中で読んだだろうか。
作者である中沢さんも、ご自分の被ばく体験が元になっているだけに、連載当初はずいぶんお辛かったそうだ。
しかし次第に、焼け跡で必死に生きようとする主人公ゲンやその周りの人びとに命を吹き込むように、いきいき描くようになられたと、のちに妻のミサヨさんが特集番組で回想されていたように思う。
そして読み手も、中沢さんの分身であるゲンと、共に泣き、笑い、時に絶望し、勇気を出して希望に向かっていく。
「麦のように、踏まれても踏まれても立ち上がれ」という亡き父親の言葉を胸に、逞しく生き抜くゲンの姿。
そして、被ばく者に対する言われなき差別や偏見、放射能による病気に苦しみながらも懸命に生きる人びとの姿に、なんと力強く、心打たれたことだろう。
☆☆☆☆☆☆☆
引越の際、単行本は手放してしまったが、今改めて、この作品を読み返したい。いや、今だからこそ、読み返さねばならない気がする。ゲンからの「もう決して同じ過ちを繰り返さないで」というメッセージを、しっかり受け止める為にも。
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