ここ一年ほど、なにかと忙しかったり、ゆっくり絵を観るような気持ちのゆとりがなかったせいか、行きたいなぁと思う美術展があってもなかなか足を運ぶことができませんでした。

気になっていた、兵庫県立美術館で行われている「ムンク展」が今月一杯で終了と気付いて、多分人は多いだろうなぁと思いながらも昨日えいっと出かけてしまいました。

ムンクといえば、”叫び”が有名で、日本では今まで、その鬼気迫る表現力や非凡な色彩感覚のせいで、「狂気の画家」という少し怖いイメージが定着してしまっている感がありますね。

エドヴァルド・ムンク (タッシェン・ニュー・ベーシック・アート・シリーズ)

実は私も、数年前のMOONSTRUCK時代、東京でのライヴ翌日に上野の国立西洋美術館で開催されていた「ムンク展」を観たときは、彼のそんな一面を強く感じた記憶がありました。

彼自身も一時神経症を患っていたこともあるそうで、重いテーマである「叫び」や、「マドンナ」という題でありながらその表情に死相を感じさせる女性像の習作が沢山展示され、どらかというと彼の「暗」の部分を見せ付けられた気がしました。

それでもなおムンクの絵画にひかれるのは、やはり、体裁や様式といったものを一切無視して、魂の命ずるがままに描いたような色彩とモチーフに、美しさや強烈な魅力を感じたからに他なりません。

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今回の展覧会のテーマは「エドヴァルド・ムンク 装飾への挑戦」彼の違う一面、装飾画家としての情熱を見ることができました。

絵を描くことが自分の内面の表現であるということはもちろん、人々が生活する場(働き、学び、楽しむ‥例えば学校、工場、劇場)にふさわしい絵を描いて装飾することも、画家の本分と考えていたのですね。恥ずかしながら、ムンクにそんな面があることをまったく知りませんでした。

依頼され、そのような施設や個人の家などの壁画を描くということが、純粋芸術ではないイメージもあさはかですがありました。しかしむしろ、自分の絵を、日常の中で生活の一部として眺め、愛着をもってくれる人へのメッセージを真剣に考え、表現しようとするムンクの試行錯誤や習作の数々が彼の芸術をより純粋で情熱的なものに昇華させている気がしました。

これって、きっと音楽にも通じることかもしれませんね。

ありのままの自分を表現することは大切だけど、作品からメッセージを感じてくれる人への愛着がなければ、ひとりよがりに終わってしまう‥別に売れ線を狙えとか、そういうことではないのですが、人間としてのさまざまな感情の機微に共感しあえるものがある‥そのエネルギーが作品を通じて作り手と受け手の間で増幅していくというのは、きっとアートでもロックでも同じなのでしょうね。

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いままで抱いていた、「狂気の画家」ムンクのイメージとうって変わった「装飾画家」のイメージ‥もっとも感動したのは、オスロ大学の講堂の壁画でした。

「太陽」「歴史」「アルマ・マーテル(ラテン語で、恵みの母)」の3部作からなっているのですが、明るく希望に満ちた色彩が、ムンク持ち前のダイナミックな構図の中で調和し、パワーあふれる世界を表現していました。

特に、「歴史」では、広大なフィヨルドを背景に、老人が少年にノルウェーの歴史を語っているようなイメージの凛とした清々しい情景が表現されていました。ムンクの祖国に対する誇りや、ノルウェーの自然から受けたインスピレーションが、ひしひしと伝わってくる、そんな絵でした。

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少しでも、図版を掲載できたらよかったのですが、意匠の問題などあり文章のみでわかり辛くすみません。

ただ、昨日の感動を忘れないように、純粋に日記として書いておきたかったものですから‥出不精の私ですが、今年はなるべくいろんな展覧会にいけたらなぁ‥久しぶりにゆっくりと絵を見れたなぁ‥と春を感じさせる日ざしの中癒されて帰ってきた一日でした。

さぁ、もらったパワーをもとに、自分も頑張らな!